気持ちいい関係。

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09.くーちゃんの悲劇。


その日の杏は最高潮に機嫌が悪かった。
ぶすっとしたままがしがしとキーボードを叩いて誰も寄せつけなかったのだ。
近寄ってきたら噛みつく!と言わんばかりの勢いである。
必死になって昨夜のことを忘れようとしたのだが、ふとした拍子に思い出し身悶えてしまう。
ここは職場!と言い聞かせながら杏は雑念を払った。
職場では品行方正。
学生時代と変わらずいい子なのだ。
多少感情の波はあるが頼れる社員であることには間違いない。
仕事に没頭していると昼休憩のチャイムがなる。
外を見れば憎たらしいほどのいい天気だ。
今日は外でお昼をしよう、そう思った杏は席を立って階下に降りた。
エレベータを降りた先で見た光景に杏は目を見開く。
芸能人に負けず劣らずのイケメンがビルの入口脇に立っているのだ。
どこにいようが目立つ。
目立つものは目立つ。
お局様や先輩たち、後輩たちが目をきらきらとさせて祐哉を見つめていた。
どこの会社の社員だと囁きあっているのが聞こえてくる。
面倒ごとに巻き込まれたくない杏は回れ右をして裏口へと駆け出した。

「み、右よーし。ひ、左よーし」

裏口のドアをそっと開けて杏は外の様子を覗う。
なぜか指先確認をして裏口から出ると杏はほっと胸を撫で下ろした。
涼しげな風が吹いて杏の髪をさらって行く。
体に蓄積された疲れが飛んでいくかのようだ。
午前中よりは幾分だるさの薄れた体に気合を入れて、一歩踏み出そうとした瞬間、ぽんと肩を叩かれて杏は短い悲鳴をあげた。

「ぎゃ!」
「可愛らしくない叫び声ですね」

杏の体を一発でふにゃふにゃにさせる声が耳を掠める。
恐る恐る振り返るとカジュアルな服装をした祐哉がにっこりと笑っていたのだ。

「ぎゃああああああああああ!でたああああああああああ!」
「くぅ。失礼ですよ」
「ななな!なななな!」

杏の叫び声に祐哉は顔をしかめると耳に手をあてている。
なんでここにいるの!?と言おうとして上手く口が動かない。
ぱくぱくと口を動かせていると祐哉に抱き締められ、ちゅうと濃厚なキスをされてしまったのだ。

「ふっ、んんぅぅっ」

まさか会社の裏口で濃厚なキスをするとは思わず杏はぎゅっと目を閉じた。
それに気をよくしたのは祐哉で杏の腰を撫でながら手を下げていく。
はっ!とした杏は渾身の力を振り絞って祐哉を押しのけた。

「なにすんのよぉ!」
「キスがしたかったのでキスをしましたが?」
「バカじゃないの!?ここ、会社!」
「ええ。わかってますよ?」

にっこりと笑った祐哉は杏の耳元に唇を寄せてぱくりと耳を食む。
ちゅぐちゅぐという音に杏の腰は砕けてがくりと落ちた。
腰を支えるように抱き締めると祐哉の笑みは深まる。

「まさか二度も逃げられるとは思いませんでした」
「うっ」
「今度逃げたらどうなるかわかってますよね?」
「え、えっとぉ」

祐哉は顔に笑みを浮かべているが目は笑っていない。
激しい怒りをぶつけられて杏は腰が引けた。
逃げ出しそうな杏を見て祐哉は杏の頭を柔らかく撫でる。

「まぁいいでしょう。今回は許してあげます」
「な、なんで許してもらわなきゃいけないのぉ!わけわかんないっ!」
「私とだけ・・お付き合いをすると約束してくださるのなら全て許して差し上げます」
「はぁ?!」

何を言っているのかわからないと杏が顔をしかめると祐哉はぐっと顔を近づけてにっこりと笑った。
今にも噛みつかれそうな勢いに杏の顔はひくりと歪む。

「さぁ。どうします?私とだけ・・お付き合いをしますか?しませんか?」
「し、しないって言ったらどうなるの?」
「そうですね」

祐哉は目を細めるとちらりと後ろを振り返る。
後ろというよりは会社を、と言ったほうがいいだろう。

「あなたの本性を今すぐにここでばらします」
「なっ!」
「本当は男好きでエッチ大好き。カレシは数知れず、といったところでしょうか」
「ちょ!」

どうします?と獰猛に笑う男は完全に肉食系だ。
見た目と中身のギャップが激しすぎる。
穏やかそうな顔をしてやることはブラックだ。
うううと呻きながら杏はこくりと頷いた。

「わ、わかったわよぉ」
「そうですか。わかっていただけたようでなによりです」
「で、でも!ちょ、ちょっとくらい味見しても、いいよ、ね?」

へらっと笑う杏を冷たい目で見下ろすと祐哉は杏の首筋に思いきり噛みつく。
ぎりぎりと噛んで止めを刺さん勢いだ。

「いたああああああいーーー!」

じたばたと暴れる杏の首筋に歯を食い込ませると八重歯が肌に突き刺さった。
少しだけ血の滲んだ首筋に舌を這わせぺろりと舐める。
ああんと喘ぐ杏に祐哉は口角を上げて笑う。

「この期に及んで私以外を食べるとかまだ言いますか」
「だってぇぇぇ」
「私以外を食べることは許しません。もし私以外に手をつけた場合。手足を縛りつけてでもベッドに拘束します」

しつけは必要ですよと何でもないことのように祐哉はさらりと言った。
杏はひゅっと息を飲むと必死に頷く。
大人しくしておくべきだと本能が告げたのだ。

「いい子ですね」

くすくす笑う祐哉は杏の襟元を正すと乱れた髪を整えた。
耳元に唇を寄せて甘く囁くと祐哉は軽くちゅっと杏の唇を奪う。

「今宵もお相手してくださいね」
「え!?」
「おや?なにか不都合でも」

さすがの杏でも二日連続はキツい。
しかもこの祐哉が相手なのだ。
抱き潰される寸前まで抱かれた杏がもう一度抱かれてしまえば確実にベッドの上の人になる。
今まで抱き潰された経験がない杏には抱き潰されることは恐怖以外のなにものでもない。
びしっと固まった杏を見て祐哉はふむと頷く。

「昨日の今日ですし、今日のところは引き下がりましょうか」

祐哉の言葉に杏はほっと体の力を抜く。
これ以上好きにされてたまるか!と思うが抵抗できた試しがない。
腕の力が緩んだ隙に杏は一目散に走り出した。
逃げきったほうが勝ちなのだ。
あっかんべーをする杏に祐哉は目を見開いて笑い声をあげた。

「そんなことをされればされるほど私は燃えるんですよ。くぅ」

 
くーちゃん、社長さんに火を焚きつける。(本人自覚なし)
社長さん、くーちゃんとのセックスにのめり込んで、どうやらあれだけでは足りないらしいです。
あーあ。

2014/05/14 投稿。


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