気持ちいい関係。

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ex13.くーちゃん、夏を満喫する。*1*


過去拍手小話。
初出:2014/7/20



月に一度の息抜き日。
杏は祐哉とともに街に繰り出しきゃっほー!と声をあげてはしゃいでいる。
四人の子を持つ杏にとって待ちに待った日だ。
上から順番に、五歳、四歳、二歳のこどもたちは元気いっぱい悪戯盛りである。
毎日毎日こらああああ!と杏は追いかけ回しているのだ。
明日の昼までは汐見が泊まり込みでこどもたちの面倒を見てくれている。
よきばぁばである汐見もまた一日中可愛らしいこどもたちに囲まれて幸せなのだ。

「ゆーやっ。今日はどこいこっ」
「そうですね。暑いですし、早めにホテルに行ってプールとかいかがですか?」
「それがいいー!水着買いにいこ〜っ」

るんるん気分で跳ねるように歩く杏の後ろを祐哉はゆったりと歩く。
つい先日、自宅のバスルームでプールごっこと称して遊んでいた杏を思い出してため息をつく。
浮き輪の上に器用に座っていた杏は体の上に基哉と祐菜を乗せてぷかぷかと浮いていたのである。
一哉と杏季もバスタブの淵に上半身をもたれさせて足をバタバタとさせて水しぶきをあげていた。
一瞬目を疑ったが紛れもない事実に祐哉は頭を抱えたのだ。

「プールにでも行けばいいでしょうに」

祐哉がため息をつくと杏は肩をすくめて、冗談やめて〜と顔をしかめた。
冗談をやめてほしいのは祐哉のほうである。

「プールなんてとんでもないよ〜。四人も面倒見れないもん」
「家だったらいいというのですか?」
「狭いしねー。目が届くしっ」
「こんな狭いところで怪我でもしたらどうするんです!」
「あ。ゆーやが怒ったー」

緊張感のかけらもない杏があっかんべーと舌を出すと祐哉はこめかみを引きつらせて一哉と杏季をバスルームの外に出した。
着替えをさせるとぶちぶちと文句をいう一哉と杏季をひと睨みする。
祐哉に睨みつけられた二人はすごすごと引き下がった。
次に杏の首根っこを掴んで同じようにバスルームから引きずり出すとぎゃあぎゃあと騒いだのだ。
双子を抱えたまま祐哉を睨む杏に祐哉も負けじと冷たい視線を返した。

「ゆーやのけちっ!」
「なんとでもお言いなさい」

そう言いつつも杏に弱い祐哉だ。
翌日にはビニールプールを買ってきてベランダで膨らませると杏とこどもたちを喜ばせた。
大きくはないがバスルームで遊ばれるよりははるかにマシだ。
楽しそうにしている杏とこどもたちを見て祐哉もほっと息をつく。
その後、リビングでスイカ割りを目撃して祐哉が説教をしたのは言うまでもない。
そんなこともあってプールを提案したは正解だった。
嬉しそうにしている杏を見て祐哉はくすくすと笑う。
水着と浮き輪を購入した杏は早く早くと祐哉を急かす。

「ご機嫌ですね」
「うん。プールなんて何年ぶりだろー?大学卒業してからは行ってないかも」
「そうですか」
「ゆーやは?久しぶり?」
「そうですね。私も随分久しぶりですよ」

ホテルのプールサイドで行われる結婚式やパーティに参加することはあっても泳ぐために行くということはほぼない。
楽しそうな杏につられて祐哉も笑みを浮かべた。

「ゆーや」
「はい?」

あのね、と上目遣いで祐哉を見上げた杏はもじもじとして体を揺らせた。
杏が願いごとをするときに体を揺らせるのは癖になっている。
何でしょうね、と内心思いながら祐哉は杏の頭を撫でた。

「今度は、いちたちを連れて、旅行に行きたいなー」
「旅行、ですか?」
「うん。海の近くがいいかなぁ。ホテルにプールがあってもいいけど。思いっきり遊ばせてあげたーい」

年に二回、栗林家の墓参りのときに一泊旅行をするぐらいで旅行らしい旅行をしたことがないことに祐哉は気づく。
ふむ、と頷くと杏の願いをかなえるべく頭を巡らせた。

「そうですね。少し考えてみましょう」
「わーい!ありがとっ!ゆーやっ」

飛びついてくる杏をしっかりと抱き締めると祐哉はくすくすと笑った。
人の視線をまったく気にしない二人はただのバカップルだ。
ホテルにつくと荷物を部屋に運んでもらうよう手配をする。
部屋には向かわず水着一式を持ってプールに向かった。
更衣室で着替えを済ませた杏が先に着替えを済ませた祐哉の元へ向かうとむっと顔をしかめる。
数人の年若い女性に囲まれて騒がれていたのだ。
均等のとれた祐哉の体は杏の目から見ても魅力的に見える。
顔も整っていて体も最高となれば人目をひく。
羽織ったパーカーのすきまから覗く鎖骨や腹筋がこれまた色っぽいのだ。
それに祐哉も杏も結婚指輪をしていない。
一人で立っていたら標的にされるのは目に見えていた。
杏は左手のブレスレットをぎゅっと掴むとすぅと息を吸って吐く。

「ゆーやは、私のだもん」

そう呟くと祐哉の元に駆け出して背中からどんと抱きつく。
驚くでもなく祐哉は体に回された杏の手を撫でると後ろを振り返って杏を胸に抱き寄せた。
きゃあああという黄色い悲鳴は祐哉も杏もまるっと無視だ。

「ごめーん。遅くなっちゃった」
「いえ。大丈夫ですよ」
「ホント?」
「ええ」

無表情の顔に笑みを浮かべると祐哉は杏の唇にキスを落とした。
んんぅとキスを受け入れた杏は嬉しそうに祐哉の首に腕を回す。
人前だろうがなんだろうが関係はない。
濃厚なラブシーンを見せつけられた女性陣は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
ほっとした杏は祐哉をぎゅっと抱き締めるとむーと唸る。

「嫉妬、ですか?」
「うん」

嬉しいですね、と呟くと祐哉は杏の背に手を回してプールサイドへと向かった。
プールサイドに並んで腰掛けると杏が足を水につけてはぁとうっとりとしたため息をつく。
心地よい冷たさで暑さが薄らいでいくようだった。

「くぅ。浮き輪を」
「あ。ありがとー」

祐哉に浮き輪を手渡すと膨らんでいく浮き輪をじっと見つめた。
あっという間に大きくなった浮き輪を水の上に浮かべると杏は祐哉に腕を伸ばして抱っこをねだる。

「浮き輪の上に座らせて〜」
「座るんですか?」
「うん。ぷかぷか浮いてるのが気持ちーよ?」

祐哉はプールの中に入るとプールサイドに座っている杏を抱き上げて浮き輪に座らせた。
嬉しそうに足をばたばたしている杏に肩をすくめる。

「楽しそうですね」
「うん。たのしーよっ!ゆーやっ。引っ張ってっ」

こどものように甘える杏に祐哉はくすくすと笑って浮き輪の紐を引っ張っる。
杏と向かい合わせのまま後ろ向きで器用に祐哉は泳いだ。
時折杏がイタズラをして祐哉に水をかけるが祐哉も杏にイタズラをし返す。
すらりと伸びた足に口づけると杏の足が震えるのだ。

「ゆ、やっ」
「何でしょう?」
「イタズラ、しないでっ」
「くぅがイタズラをするからいけないんですよ」

しれっとして言う祐哉に杏はんもぅ!と声をあげるがその声はどこか楽しそうだ。
プールを一周すると祐哉は浮き輪に手で持って杏の膝にあごを乗せた。

「冷たくて気持ちいいですね」

目を細めた祐哉の頭を杏は撫でるとくふふと笑う。
そのまま流れるプールに向かうと流れに身を任せて祐哉と杏は水を漂った。
泳いではリクライニングチェアで休憩したりを繰り返して夏のひとときを祐哉と杏は満喫する。
祐哉はリクライニングチェアに座ってぷかぷか浮き輪に座って浮いている杏を見つめた。
器用にくるりと浮き輪を回すと杏は祐哉を振り返る。

「ゆーや」
「はい?」

こいこいと手招かれて祐哉は杏のそばに寄ると引きずり込まれるようにプールの中に落ちた。
水の中で杏がにやりと笑うと祐哉に口づけて空気を奪う。
ざばりと水面にあがると祐哉ははぁと息をつく。

「いきなり何をするんです」
「んー?ゆーやとちゅーしたかった?」
「普通にすればいいでしょうに」
「水の中だとなんだか違った感じ?」

楽しそうに笑う杏を抱き寄せて祐哉は苦笑する。
水の中で漂いながらキスをするのは心地よい。
周りから遮断され二人きりを実感するからだ。
ただ、思う存分キスをし合えないという欠点はある。

「ゆーや」

間近に迫ってくる杏の顔を見つめながら祐哉はキスを受ける。
はむはむとキスをされて祐哉の口元に笑みが浮かんだ。

「我慢の限界ですか?」
「うん」
「部屋に戻りましょう」
「うん」

杏が祐哉目掛けて飛びつくとドボン!と水しぶきがあがる。
勢いで水の中に沈み込んだ祐哉と杏はもう一度水中でキスをし合った。
ざばりと水から出ると情欲に濡れた目で見つめ合ってはぁと甘いため息をつく。

「今宵は思う存分可愛がって差し上げますよ」
「う、ん。くぅのこと、可愛がって」
「ええ。覚悟なさい。くぅ。愛してる」

祐哉の答えに杏は満足そうに笑うと唇を突き出してキスをねだる。
軽く杏の口を啄むと杏をプールサイドに座らせ、自身もプールから上がって、手を伸ばしてきた杏を抱き上げた。


どこででもいちゃいちゃできる人たち。

2014/08/16 投稿。


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