気持ちいい関係。

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18.くーちゃんとはるかの内緒話。


目の前でご機嫌でジェノベーゼパスタを頬張っている杏を見てはるかはほっと息をつく。
大学で知り合ってからずっと杏のことを心配していただけに収まるところに収まってくれた親友にやれやれと胸を撫で下ろす。

「んー。はるかの作るパスタおいちーっ」
「おいちーじゃないでしょう。ちゃんと美味しいって言いなさい」
「んもう。はるかはお母さんみたいなんだからっ」
「こんな大きなこども二人もいりません」

呆れたようにはるかが言うのだが杏はそれを見逃さない。
にやりと笑ってはるかの脇腹をつんつんと突く。
ひゃあ!と声をあげたはるかは椅子から落ちそうになって慌ててダイニングテーブルにしがみついている。

「くーちゃん!危ないじゃない!」
「だってぇ」
「だってじゃありません!」
「はぁいー」

ぺろっと舌を出した杏は残りのパスタを口に入れてもぐもぐと咀嚼する。
デザートのトマトゼリーを食べるとにんまりと口を緩めた。

「ま。大きなこどもはカレシさま以外にはいらないよねーっ」
「本当ね。いらないわ。佳が二人だなんて考えただけでも頭が痛いもの」
「はるかも大変だね」

プチトマトがまるごと入ったゼリーは杏のお気に入りだ。
土産に五つほど頂いて帰る予定である。
甘いのか酸っぱいのかわからないこの味覚が杏には堪らないのだ。

「でも、よかった」
「なにがぁ?」
「くーちゃんが一人の人に落ち着いて」

杏がむぅとした顔をするとスプーンを咥えたままはぁとため息をつく。
行儀が悪い!とはるかに怒られてもどこ吹く風だ。

「こっそり隠れて合コンで男の人引っ掛けてエッチしたらバレちゃってー」
「え?」

突然の告白にはるかは目を見開く。
この期に及んでまだほかの男性と関係を持つ杏に呆れを通り過ごして白い目を向ける。
奔放なのはいいが空気を読まなければだだのやりたいだけの女になってしまう。

「もちろんエッチはゴムでしたしぃ。ラブホで体も綺麗にしてぇー、朝出かけたときと同じようにしたんだけど、ダメだった!」
「当たり前でしょうがっ!」
「もうね。その日の夜、すんごかったの」
「いい。聞きたくない」

はるかは手で耳を押さえると顔を背けて知らんふりをする。
杏はテーブルをだん!と叩くとはるかに詰め寄って耳を塞いでいた手を外させた。

「聞いてよ!」
「聞きません!」
「ケチっ。でも言うもんねっ」
「くーちゃんっ!」
「ゆーやったらひどいのっ」

酷いのはどちらかといえば杏だ。
酷いことをされても文句を言える立場ではない。

「お仕置きって言って全身ロープで縛られて、おもちゃでイカされるだけイカされたのーーー!!」
「聞きたくないです!」
「ゆーやのくれないしっ!朝まで散々いじめられるしっ!最低だったんだから!」
「最低なのはくーちゃんでしょうが!」

互いに叫びあってぜぇぜぇと息をすると同時にテーブルに突っ伏した。
はるかは好きで親友のあからさまな性生活を垣間見たのではない。
杏から無理矢理聞かされているのである。

「だからもうやめたの」
「だから、当たり前のことでしょう?」
「つまんなーい」

ぶーと不貞腐れる杏にはるかは胃を押さえた。
放っておけばいいのに放っておけない杏の愛嬌さがたまに憎くなる。
痛む胃を押さえるとはるかはスマホをタップした。

『さっさとあなたのくーちゃんを迎えに来てください!私の胃が死にます!』

メールを送信して三十分後。
爽やかな笑顔を浮かべた祐哉に杏が捕獲されたのだ。
祐哉と一緒に戻ってきた佳は嬉しそうな顔をしてはるかに抱きついている。

「はるか。ナイスっ」
「はい?」
「祐哉さんが仕事を早く切り上げてくれたから一緒に帰ってきた」
「えー」
「なんだよ!そのえーって!」
「仕事は早く切り上げなくてもいいのに」
「はるかっ、冷たいっ」

こちらの夫婦は夫婦で相変わらずだ。
杏の目にはいちゃいちゃしているように見えてものすごく面白くない。
にっこり笑っているのに笑っていない祐哉を見て杏はひくりと顔を引きつらせる。
理不尽な仕置が待ち受けているのだ。
いちゃいちゃとしている親友夫婦に向かって杏は叫ぶ。

「はるかの裏切り者おおおおおおお!」


はるか、大迷惑。

2014/05/18 投稿。


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