気持ちいい関係。

  top


22.祐哉、暗闇を知る。


だるさが時間を追うごとに酷くなり杏はため息をつく。
丸一日眠ればなんとかなるだろうとタカをくくっていたのだ。
だるい体にムチ打って食事だけ済ませると動く気にもなれずソファに突っ伏す。
うとうとと眠っているとひやりとした感触に意識を浮上させた。
目を開くと杏の頬に触れる祐哉の指先が見えてくすりと笑う。
祐哉は心配そうな色を目に浮かべて杏を見つめているのだ。

「おか、えり」
「ただいま。くぅ」

腕を伸ばして抱きつくと嗅ぎなれた祐哉のフレグランスが杏の鼻をついた。
甘くてスパイシーな匂いだ。
杏はこの匂いが好きで祐哉のフレグランスをこっそりと借りている。

「具合はいかがですか?」
「んー。だるい」

そう言うと杏は目を閉じて全体重を祐哉にかける。
祐哉は杏の額にこつりと額を合わせると目を閉じた。
熱は下がっていると汐見から聞いていたがまた少し熱が上がっているようだ。
だるそうにしている杏を抱き上げるとベッドに運ぶ。

「具合が悪いのにソファで寝ていたら意味がないでしょう」
「ん」

聞いているのか聞いていないのかわからないような返事をして杏は目を閉じている。
ベッドに横たえてシーツを肩までかけると杏の目がうっすらと開いた。

「あのね」
「はい?」

祐哉の服の袖を掴むと杏が幸せそうな顔をして笑った。
どこか夢見心地で懐かしそうな顔をしている。
初めて見る杏の柔らかな笑みに祐哉は息を飲む。

「久しぶりにお母さんが夢に出てきたの」
「そうですか」
「お盆にお墓参り行ってないから、温泉旅行の帰りに寄りたい、なぁ」
「は?」

聞き返そうとしたときには杏は深い眠りに落ちていた。
すーすーと気持ちよさそうに眠る杏の頭を撫でて、祐哉はふむと呟く。
スマホをスーツのポケットから取り出すとはるかのスマホへコールする。
今この状況で杏のことを誰よりもわかっているのははるかしかいない。

「くーちゃんのこと、よろしくお願いします」

佳とともに事務所へやってきたはるかが祐哉に深々と頭を下げたのだ。
たかだが親友に対して普通はここまでしない。
はるかが杏のことを大事にしているのが真剣な表情から見て取れた。
悔しくはあるが杏のことが知りたいならはるかに聞くしかない。
本来なら杏から直接聞くのが一番いいのだが今は少しでも情報が欲しかった。
祐哉が杏を知るには時間が足りなすぎたのだ。

「いつになったら私に心を全部くださいますか?」

切なく呟くと祐哉は杏の唇に触れるだけのキスをする。
体を丸めて眠っている杏を起こさないようにそっと寝室から出ると祐哉はソファに腰かけた。

「ああ。夜分遅くに失礼を。少々お話をよろしいでしょうか」

はるかの後ろで文句を言っている佳の声が聞こえる。
佳も今しがた帰宅したのだろう。
邪魔をされて不機嫌そのものだ。
手短に話を済ませると祐哉はため息をつく。
はるかの話を聞いて祐哉は杏の中に眠る暗闇を垣間見た気がした。
何ができるわけでもないがそばにいてやりたいという気持ちが湧いてくる。
着替えを手早く済ませると杏の隣に潜り込み寝顔を見つめた。
穏やかな寝顔からは想像もつかない悲しみや苦しみがあったのだろう。

「あなたの口から教えてもらうまで、私は口を閉ざしましょう」

どうか悪い夢は見ませんようにと祐哉は杏の額に口づけて懐深くに閉じ込める。
誰にもさらわれないように深くきつく抱き締めて祐哉も眠りについた。


し、シリアスには、な、ならないから!

2014/05/19 投稿。


  top


Copyright(c) 2014 yoma_ohkawa all rights reserved.