気持ちいい関係。

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23.祐哉、くーちゃんを甘やかす。


翌朝、微熱でだるそうにしている杏を見て一日仕事を休むようにときつく言い渡す。
ふらふらしている杏を見て仕事に行かせる気にはなれなかった。

「このままだと仕事に行きたくなくなっちゃう」

はぁとため息をつく杏の頭を撫でると祐哉はにっこりと笑った。
杏が望むのならそれでもいいと思っている。

「仕事を辞めますか?」
「やだぁ。ゆーやの思うようにはなんないもん」

それとなく言ってみると杏がはぁ?という顔をしてあっかんべーと舌を出した。
予想通りの展開に祐哉はくすくすと笑う。

「それなりに愛着はあるもん」
「会社ですか?」
「うん。みんなよくしてくれるし。おじさまたちはやさしーし?」

へらっと笑う杏に祐哉は冷めた目で見返した。
いくら社内の人間には手を出さない主義なのぉと聞いていても気分がいいものではない。

「ほぅ。そのおじさまたちとよろしくしたいんですか?」
「まっさかぁー。お父さんって感じかな」

しんみりして言う杏に祐哉は口をつぐむ。
杏の事情をはるかから聞いているとはいえ、祐哉から言うわけにはいかないのだ。

「そうですか」
「そーなんですよー」

おどけて言う杏は行儀悪く椅子の上にあぐらをかいて座っている。
話をしている声は元気そうに聞こえるが、食欲がないのかサラダをつんつんと突ついて食べようともしない。
フォークを手放すと杏はテーブルに突っ伏してうーと唸っている。

「だるいですか?」
「んー。胃がムカムカする。ごめん。ごはんもういい」
「無理して食べなくてもかまいませんよ」

杏は椅子から降りて床を這いながらリビングに向かうとエアコンの真下で伸びた。
薄着で腹部を出して眠っていたら体調も悪くなるというものだ。
寝室のクローゼットから白地のタオルパーカーを取り出すと嫌そうな顔をした杏に無理やり着せた。

「暑いからいやぁーっ」
「暑いからこそ着ておきなさい。また汐見さんに叱られますよ」
「うっ」
「大体、そんな薄着でうろうろするから体調を崩すんです」
「うーっ」
「うーではありません」

あぐらをかいた祐哉の足のあいだに座らされると杏はうーうーと唸る。
くるっと振り返って向かい合うように座り直すと杏が祐哉を押し倒してキスを仕掛けた。

「何をなさっておいでで?」
「祐哉がいじめるから仕返し?」
「体調が悪い人がすることではありませんよ」
「意地悪したい気分なんだもん」
「具合がよくなればいくらでも抱いて差し上げます」
「ゆーやのばかっ」

祐哉の両頬を引っ張っている杏は悔しそうな顔をしている。
元気なのか元気でないのかよくわからない杏の頭を撫でた。
頭を撫でながら、いっそのこと起き上がれないくらいに抱き潰そうかと邪な気持ちが湧いてくる。
杏の体に手を伸ばして触れればしっとりと火照っていた。
額に手を触れるとまた熱が上がったようだ。

「くぅ。またぶり返しているではありませんか」
「暑いのがいけないんだよお」

祐哉が体を起こすと杏は渋々と祐哉の膝から降りて不貞腐れてラグの上に丸まってしまった。
こどものような仕草に祐哉は苦笑いをする。

「くぅ」
「やっ。触んないでっ」
「せめてベッドで寝なさい」
「ほっといてっ」

やれやれと肩をすくめると祐哉は食事の後片付けと寝室のシーツを取り替える。
寝室の空気を入れ替るために窓を開けるとシーツを持って洗面へ向かう。
リビングを横切ったときにちらりと感じた視線。
くすりと笑うと祐哉はその視線を無視した。
甘やかすばかりでは杏は言うことを聞かない。
少し突き放すぐらいがちょうどいいのだ。
洗濯機にシーツを放り込んだあとリビングに戻ると杏がじーっと祐哉を見つめていた。

「ゆーや」

ぼそりと呟かれた声に聞こえないふりをしてキッチンへ向かった。
冷やしておいたアイスティーと温めの麦茶を持ってリビングに戻る。
ソファに座ると杏が近寄ってきて祐哉の膝に頭を埋めた。

「ゆーや」
「はい」
「ゆーや」
「何でしょう?」
「ゆーやぁ」

祐哉の腰に腕を回して抱きついてくる杏は祐哉の名前を繰り返すばかりだ。
ぼさぼさになった頭を撫でてやると杏の口からはすーすーと寝息が聞こえてくる。

「野良猫を飼い慣らすのも大変ですね」

くつくつと笑うと杏を抱き上げて寝室へと連れていく。
ベッドの上に降ろすと肌触りのいいタオル地が気持ちいいのかすりすりと顔を寄せて丸まった。
まるで猫のような姿に苦笑を浮かべると顔を紅くした杏の頬にちゅっとキスをする。
眠っているときだけは素直でくすぐったそうな顔をして笑っているのだ。
せっかくの休暇ではあるがたまにはこんな日があってもいい。
そう呟くと祐哉はゆったりと杏の頭を撫でて寝顔を見つめたのだった。


意外にばかっぷるなひとたちだった。 

2014/05/19 投稿。


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