気持ちいい関係。

  top


25.寄り添いたい気持ち。


墓前で手を合わす杏の横顔は穏やかだ。
目を閉じて何を語っているのだろうか。
ぱちっと目を開けると杏は墓石に触れてくすくすと笑う。

「お父さん。お母さん。お正月に来られたらまた来るね〜」
「お正月はゆっくりできますし来られますよ」
「え?」

きょとんとした顔をして杏は祐哉を見上げた。
まじまじと祐哉を見つめてえーっと呟く。

「何です?その顔は」
「この顔は生まれつきっ」
「そうではなくて」
「わかってるって」

けらけら笑う杏は祐哉の背中をばしっと叩く。
ついこのあいだまで暑さで元気をなくしていたとは思えないほどの変貌ぶりだ。

「私一人で来れるし。気ぃ使わなくていいよ。ここ遠いし大変だし寒いし?」

つれないことを言う杏は悪気もなくあはははと笑っている。
何が楽しくて正月に一人きりで過ごさなくてはいけないのか。
冗談じゃないと思いながら祐哉は杏を睨む。

「せっかくのお正月なんだから実家に帰れば?」
「誰に言ってるんです?」
「ゆーや。実家あるんでしょ?」
「ありますが、寄りつきたくありません」
「なんでぇ?」

お正月と言えば家族でゆっくりするもんだよーと杏が呟いている。
破天荒な杏からそんな言葉が出てくるとは思わず祐哉は苦笑いだ。
実家に帰れば、やれ彼女はいないのか、結婚はまだなのか、見合いをしろとうるさくてかなわない。
祐哉の弟である直哉が結婚してこどもが生まれてからは落ち着いていたと思ったのだがそうはいかないのだ。

「くぅが一緒に来てくれるなら考えます」
「やだ」

きっぱりと即答した杏はあっかんべーと舌を出すと空になった桶を持って墓石にまたねと手を振った。
軽やかに歩いて行く杏の後ろを追いかけた祐哉の耳に声が聞こえる。
振り返ってみても誰もいない。
霊感はあるとは言い難いがいるのだろう。
娘(くぅ)を心配する父親と母親の魂が。
にっこりと笑みを浮かべると祐哉は宙に声をかけた。

「ご心配なく。私が杏に捕らわれていますので手放したりしません」

くすくすと笑う声が聞こえて祐哉は肩をすくめる。
捕らわれているのは杏のように見えて実はその逆だ。
祐哉が杏に捕らわれて手放せずに囲っているのである。

「ゆーや!行くよー」
「ああ。待ってください。くぅ」

早く早くーと先を歩く杏を祐哉は追いかけた。
杏に追いついた祐哉は杏の手を取り指を絡める。
離れて行かないようしっかりと手を繋ぐと杏の手を引いてゆったりと歩き出す。
楽しそうな雰囲気の祐哉に杏は首をかしげると繋がれた手をじーっと眺めて照れくさそうに腕をぶんぶんと振る。

「たまにはこういうのもいいね」
「喜んでいただけたようでなによりです」
「それにしてもお母さん驚いただろうなー」
「なぜです?」
「無駄にイケメンが一緒だったから!」

びしっと祐哉を指差すと何が楽しいのか大笑いしている。
杏の頭をぐしゃりと撫でると祐哉も口元に笑みを浮かべた。

「無駄にイケメンとはなんですか」
「だってゆーや、芸能人よりいい男だよぉ?」

じゃなかったらあの日ゆーやとえっちしようなんて思わなかったもん、と相変わらずの明け透けっぷりだ。
無駄にイケメンだったおかげで杏に目をつけられて今がある。

「では。無駄にイケメンだったことを感謝しておきましょう」
「ぷっ」

楽しそうにしている杏に唇を寄せるとちゅっと軽くキスをする。
杏もそんな気分だったのか祐哉にキスを返してきた。

「うちのお母さんさぁ。イケメン大好きだったんだよねー」
「くぅの母君は面食いですか」
「そーなの!お父さん恰好よかったもん」
「そうですか」

杏の口から零れる家族の話。
祐哉の知らない杏の過去を取り零すことがないように記憶に刻み込んでいく。
目に浮かぶ光景に笑みを浮かべる。

「一度お会いしたかったものです」
「写真あるよ?見る?」
「見せていただけるのなら」
「帰ったら見せてあげる〜」

嬉しそうに見上げてくる杏の頭を撫でて祐哉は笑みを深める。
些細なことが未来へ繋がっていく。
その喜びを噛みしめながら祐哉と杏は宿へと向かった。

 

2014/05/21 投稿。


  top


Copyright(c) 2014 yoma_ohkawa all rights reserved.