気持ちいい関係。

  top


27.くーちゃんの揺れる心。


露天風呂から上がると互いに体を拭き合って浴衣を着る。
温泉好きなだけあって杏は浴衣を難なくと着こなす。
髪の毛をひとつにまとめてくるりと巻き上げている後ろ姿に祐哉は目を細めた。
襟元から覗くうなじが色っぽく誘われるようにして腕を伸ばす。
ぐいっと抱き寄せるとうなじに唇を寄せて柔らかく食んだ。

「ゆーやっ」
「はい」
「ダメって言ったのにっ」
「わかってますよ」
「わかってなっ、んぅ」

抗議する唇を塞いで黙らせると薄く開いた口の中に舌をすべり込ませて甘さを堪能した。
逃げる舌を追いかけて絡みつかせると強く吸い上げる。
何度も逃げていく杏の舌を甘噛みして落ちるのを待つ。
祐哉の浴衣の袖をぎゅっと握り締めていた杏の指から力が抜けてだらりと落ちた。

「はぁ」

とろりとした顔をしている杏の顔を撫でて、濡れた唇を舐めると祐哉はくすりと笑う。
耳元にちゅっとキスをすると甘く囁いて杏をさらに落とす。
杏は祐哉の声に弱いのだ。

「ごちそうさまでした。くぅ。美味しかったですよ」
「ゆーやのばかぁ。私も食べたいのにぃ」
「あとでいくらでもあげますよ」
「んもぅっ」

怒りながらも祐哉に体を預けると杏は腹部に回された腕を撫でる。
とことん杏を甘やかせてくれる存在が嬉しくもあり不安でもあるのだ。
さようならと言われるのが怖くて今一歩踏み出せない。
杏は祐哉のことが好きだ。
のめり込むほどに好きになっていた。
自身の過去を打ち明けてしまうほど気を許している。
杏はそんな臆病さに自嘲気味に笑う。
大事な人であればあるほど失うのが怖いのだ。
心が一瞬にして凍りついていく感覚。
二度と味わいたくないあの感情。
大事なものを作るなと体と心が悲鳴をあげる。
だからこそ気軽な関係が楽だったのだ。

「くぅ?」
「ゆ、や」

ぴたりと止まってしまった杏を心配そうな顔で見下ろしているのは祐哉だ。
杏は泣きそうな顔をして祐哉を見上げる。

「どうしました?今にも捨てられそうな子猫みたいな顔をしていますよ」

ゆったりと杏の手を引くと祐哉はソファに座って杏を向かい合うように膝の上に座らせた。
顔を俯けた杏は祐哉って卑怯と心の中でののしる。
いつだって杏の気持ちを先読みして逃げ場をなくすのだ。

「なにがそんなに不安なんです?」
「いろ、いろ」
「いろいろ?」
「うん」

祐哉が杏の腰を引き寄せて抱き締めると胸元に顔を埋めてくすくすと笑った。
杏も祐哉の頭を抱き締めて頬ずりをする。

「なにを不安がっているのか知りませんが、私から逃げられるとは思わないことです」
「ゆ、や」
「私の本気、疑っていらっしゃるのですか?」

目をさまよわせている杏のあごを捕らえると正面から見つめてにこりと笑った。
祐哉の笑みを見て杏の全身には鳥肌が立っている。
ごくりと喉を鳴らす杏に祐哉は口角を上げた。

「私の本気。受け取っていただきましょうか」
「え?」
「今まで少々我慢しておりましたが、手加減はいたしません」
「え?ええ!?」
「覚悟なさい。杏」

地を這うような声で杏を絡め取ると祐哉は綺麗な笑みを浮かべた。
『くぅ』ではなく『杏』と呼ばれてひゅっと息を詰まらせた杏の体は固まっている。
今宵は楽しみましょうね、と囁くと杏を抱き上げて隣の部屋に移動した。
テーブルの上には豪華な食事が並んでいる。

「楽しむ前に食事を済ませましょう」

セックス前にしっかりと食事を摂るのが杏の決まりごと(ルール)だ。
一度だけ食事を摂らずに杏を抱くと空腹を訴えて途中放棄をされたことがある。
昂ぶった熱を収めるのに苦労した祐哉はそれ以来、しっかりと食事だけはさせているのだ。
杏を座椅子に座らせると祐哉も反対側の座椅子に座り食事を始める。
手元を震わせながら食事をしている杏は心ここにあらず、だ。
時折ちらりと祐哉を見ては目を逸らしそわそわしているのである。
手酌をしながら祐哉はほくそ笑む。

「めいっぱい可愛がって差し上げますよ。くぅ」


社長さん暴走一歩手前。
くーちゃん珍しく弱気。
いい子なんです。
ある意味純粋なのでハートはガラスのよう。

2014/05/22 投稿。


  top


Copyright(c) 2014 yoma_ohkawa all rights reserved.