気持ちいい関係。

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38.くーちゃんの初デート。*1*


待ちに待ったデートの日がやってきた。
結局はるかには散々説教をされただけで解決策など出るはずもなく、しょんぼりと肩を落としてマンションに帰ったのだ。
コンビニでデート特集という雑誌を見つけて藁をもすがる思いで手にしたのは言うまでもない。
暇さえあれば雑誌を眺めて、あれもいいな、これもいいなと妄想デートにどっぷり浸かっていた。

「今日は映画だけど、今度は水族館とかいいなぁ。ゆーやと手を繋いで水槽の前で、ちゅー。えへっ」

無駄に知識をつけたせいで杏の妄想は酷くなる一方だ。
杏は下着姿でぐっと手を握り締める。
ゆーやと気持ちいいこといっぱいするっと気合を入れた杏はやはりどこかひとつ斜め上を走っていた。
気合を入れたのはいいが、なにを着ていけばいいのかわからずにウォークインクローゼットの中を右に左にうろうろする始末だ。

「くぅ?準備は出来ましたか?」
「ま、待ってぇ」

支度の整った祐哉がクローゼットを覗き込むと目に飛び込んできたのは下着姿の杏だった。
緩く波を打つ髪が背中を覆っていて杏が右へ左へ動くたびに白い背中がちらりと見えるのだ。
その艶めかしさに祐哉はごくりと唾を飲む。
お楽しみは夜までとっておきましょうかと祐哉は欲望を無理矢理に押さえつけた。
あたふたしている杏を見て祐哉は笑みを浮かべたままそばに寄る。
さりげなく腰に手を回して肌の感触を確かめることも忘れないあたり抜かりのない男(祐哉)だ。

「決まりませんか?」
「うん」

素直に認めるとちらりと祐哉を見上げる。
ふむと呟いて祐哉がクローゼットの中を見渡した。
どうせなら自分好みにするのもいいと祐哉は内心ほくそ笑む。
白のタートルネックのセーターにブラウン系のタータンチェックのミニ巻きスカートを取り出すと杏に差し出した。

「これにしましょうか」
「これで、いいの?」
「ええ。きっとお似合いですよ」

にっこりと笑う祐哉は黒のVネックのセーターにジーンズという出で立ちだ。
セーターの上にはジャケットを着込んでいる。
Vネックの襟元から見える鎖骨が艶かしい。
杏の大好きなフレグランスが香って心臓がどくりと高鳴る。

「いつまででも下着姿で私の目の前をうろついていると襲いますよ?」
「!」
「早く着替えなさい」

くすくすと笑って祐哉はクローゼットを出て行くと取り残された杏は服を握り締めて口をぱくぱくとさせた。
そんな杏は勝負下着を着ている。
見られてしまっては意味がない。
オフホワイトのレースブラとお揃いのTバックショーツは惜しげもなくレースが使われている。
レースの透け具合がエロっぽく杏は気に入っているのだ。
見られちゃった、と思いながらもまぁいいかと素早く気持ちを切り替える。

「くぅ?」
「すぐ着替えるっ」

慌てて杏は服を着込むとワインレッドのカラータイツを履いて姿見の前でチェックする。
乱れがないか確認するとドレッサーの前に座ってメイクだ。
仕事に行くよりも少し濃い目にしたメイクは華やかで祐哉の選んだ服によく合っていた。
ピンク色のラメ入りグロスを塗れば唇はぷるんと潤う。
よしっと気合を入れ直すと黒のジャケットを手に取って杏は祐哉の待つリビングへと向かった。

「お待たせっ」
「早かったですね」
「だって、ゆーや、待たせてるから」
「気にしなくてもよかったんですよ?」
「ゆ、ゆーやがいつ襲ってくるかわかんなかったから!」
「そうですね」

否定しない祐哉に杏はどきっと胸を弾ませる。
襲われたいような襲われたくないような、不思議な気持ちに包まれて杏はそわそわとした。
初めてのデートに胸を高鳴らせて祐哉と手を繋いでマンションを後にする。
移動は車だ。
ラッシュに巻き込まれることもなく快適に目的地についた。
車を駐車場に停めるとあてもなく街をぶらぶらと歩く。

「ゆーや」
「はい?」
「ちょっとほしーものがあるんだけど」
「何です?」
「ボディークリームもうなかったから買いに行きたいんだけど、いい?」
「構いませんよ」

連れ立って杏御用達の化粧品雑貨の店に行くと色とりどりのバスグッズが並んでいた。
祐哉も一緒に中に入れば、店員も客も色めき立つ。
私のゆーやなのにっと杏は内心嫉妬する。
ぷくぅと頬を膨らませている杏の頬を祐哉が柔らかく撫でるときゃあと小さな声があがった。

「私はくぅだけのものですよ」
「うん」
「心配ですか?」
「うん」

素直な杏に祐哉はくすっと笑う。
ぎゅっと祐哉の腕に抱きついてくる杏の頭を撫でると見せつけるようにして杏の耳元に唇を落とした。

「ゆーや。感じちゃうからやめてっ」
「すみません」

悪びれた様子もない祐哉に杏はめっと睨みつける。
んもぅと言うと先を歩いてお目当ての商品に手を伸ばす。
杏が取るよりも先に祐哉がひょいと手を伸ばして商品を手にするとにっこりと笑ってほかには?と聞くのだ。
いくつかバスグッズを祐哉に買ってもらうと杏はほくほくと顔を緩める。

「ありがと」
「いいえ。どういたしまして」
「でーとって楽しいねっ」

うきうきとしている杏を見下ろして祐哉は口元に笑みを浮かべた。
先を歩いていた杏がくるりと振り返ると祐哉に手を差し出して早くと呼んだ。
指を絡め合わせて手を繋ぐと杏が満面の笑みを浮かべたのだった。


くーちゃんのデートが普通で済むわけがない。
映画館でじっとしてるわけがないよね。
うん。

2014/05/26 投稿。


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