気持ちいい関係。

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43.くーちゃん、ふてくされる。


クリスマスも近くなると必然的に仕事もプライベートも忙しくなる。
クリスマス、大掃除、大晦日、年始とめまぐるしく行事は巡ってくるのだ。
恋人らしくクリスマスイブもクリスマスも二人で仲良く過ごしたのだがいかんせん平日だ。
満足するほど抱き合えず杏は悶々としている。
そういうときに限って悪いことは続くのだ。
杏の会社は年末年始休暇に入っているが祐哉はそうでない。
年末年始はゆっくりできるから墓参りに行くと言っていた祐哉に仕事が入り約束が反故された杏は少々むくれ気味だ。
仕事なら仕方ないと割り切っても割り切れない感情が渦巻く。
大掃除の済んだリビングで杏はクッションにぼすぼすと八つ当たりする。

「杏さん!クッションに八つ当たりしない!」
「わわわっ!ごめんなさーいっ」

腰に手をあてて仁王立ちする汐見は迫力がある。
怒られてしゅんとすると杏はソファに体育座りをして小さくなった。
普段から汐見が綺麗にしている家は大掃除をするところがあまりない。
たまった新聞や雑誌を片づけるくらいで終わってしまい杏は手持ち無沙汰なのだ。
汐見が作っている御節の手伝いをしようとして火傷をしかけた杏は早々に御節作りからリタイアしている。
ごろごろしているのも居心地が悪く、かといって出かけるのも億劫だ。
趣味らしい趣味がないことに気づいて杏は愕然とする。

「私の趣味ってゆーやなの?そうなの!?」

ぶつぶつと独り言を言う杏に汐見はくすくすと笑う。
そんな汐見の首元には杏がクリスマスに贈ったネックレスが輝いている。
雪の結晶を模ったペンダントトップは華やかさには欠けるが優しい印象を与え、汐見によく似合っていた。
仕事の邪魔にならないようにと杏の心遣いである。

「杏さん。することがないのでしたらお味見してくださいな」
「はぁい」

よっこいしょーとソファから立ち上がると杏は汐見を後ろから抱き締めてあーんと口を開けている。
最初は杏の過剰スキンシップに戸惑いを隠せなかった汐見であるが慣れてしまえばどうということもない。
甘えられることが嬉しくて嬉しくて仕方がないのだ。

「んぅぅ〜っ。しっかり味が染み込んでておいちぃ〜」
「こちらはどうですか?」
「あーんっ」

汐見特製のから揚げを口にすると杏ははぁぁぁとため息をついた。
うっとりとした顔をして頬を押さえているのである。

「汐見さんのから揚げがちょーーーおいしーーーっ」

もうひとつちょーだーいとねだる杏の口にから揚げを入れると汐見は美味しそうに食べている杏を目を細めて見やった。
本当なら杏と一緒に料理をしたいところであるが、人には向き不向きがある。
こうやって味見をしてくれるだけでも汐見は幸せなのだ。

「ねーねー。汐見さん」
「はい。なんでしょう?」
「甘い卵焼きつくってぇ〜」
「甘い卵焼きですか?」
「うん。たまに食べたくなるんだよねー。甘い卵焼きっ」
「今日のお夕飯は甘い卵焼きを焼いておにぎりを握りましょうか?」
「遠足だっ」
「から揚げも全部は重箱に収まりませんしね」

やったー!と声をあげる杏はむぎゅうと汐見に抱きついて甘えた。
母親のような汐見が杏も大好きで仕方がないのだ。
むふふと笑う杏に汐見もくすくすと笑う。
明日から一週間ほど杏に会えなくなるのが寂しく、汐見はなるべく考えないようにしている。

「あ。そうだ。汐見さん」
「はい。何でしょう?」
「お正月、暇な時間ってある?」

そう言われて汐見は頭を巡らせる。
一日、二日でそれぞれの両親の元へ行き挨拶を済ませたら三日は家族揃って初詣に出かけるのが汐見家の正月だ。
四日以降は特に用事もない。

「じゃぁ。四日に汐見さんちに行くね」
「はい?」
「新年のご挨拶っ」

困ったような顔をした汐見に杏はダメぇ?と甘えたように見つめたのだ。
一人で家にこもってるの嫌だもんと聞いてしまえば断るに断れない。
長く家政婦という仕事をしているが雇い主が家に来るなどいまだかつてなかったことだ。

「来ていただいてもなにもありませんよ?」
「いいのー。汐見さんと一緒にご飯食べてテレビ見てのんびりするもん」

えへっと笑う杏に汐見も笑みを返した。
これは一大事だと汐見は頭の中からメニューを引っ張り出す。
可愛くて可愛くて仕方のない杏が新年の挨拶にやってくる。
たくさん美味しいものを用意しなくてはと汐見は張り切った。

「お待ちしておりますね」
「うん。楽しみにしてるね」

退屈だった年末年始が少しだけ楽しくなった杏は嬉しそうに笑ったのだった。


時間にきっちりしていない仕事って大変だなぁと思う今日この頃。
顔の広い社長さんはあっちにこっちにと忙しそう。

2014/05/28 投稿。


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