気持ちいい関係。

  top


46.くーちゃん、小悪魔っぷりを発揮する。


干からびた三人を前にして祐哉は満足そうに笑みを浮かべた。
これでしばらくは大人しくしているだろうと目論む。

「なぜ僕まで」
「それは俺も同じ」

社長室の黒革張りのソファにくったりと沈み込んで天井を仰いでいる佳はうあーと呻いている。
その後ろに立っている直哉も疲労が隠せない。
佳の斜め前に座っている静も同じような感じだ。
膝に肘をついて項垂れている。

「年始に佳の生特番がありますがそれが終わったら特には仕事は入れていません」

デスクをこつこつと指で叩くと祐哉は書類に目を通していく。
その生特番に静も同行させるのだ。
もちろん祐哉もついていくことになっている。
佳をここまで育て上げたのは祐哉ではない。
きっかけを与えたのは祐哉であるが、そのチャンスを自分のものにしたのは佳自身だ。
今回の生特番には佳の育ての親でもある監督も出演する。
それならばと祐哉も挨拶を兼ねて静を同行させることにしたのだ。
失敗は許されない。
そのためのマナーレッスンではあったが、どうするかは静次第だ。

「祐哉さんの鬼」
「何とでもおっしゃい」
「年末年始くらいはるかとゆっくりさせてくれてもいいのに」

むっとした顔をして佳はソファに身を沈めるとぶつぶつと文句を言うのだ。
文句が言えるのなら祐哉も言いたいところだが経営者としてそれは許されない。

「一日の辛抱です。我慢なさい」

渋々返事をする佳に祐哉も肩をすくめる。
予定の確認をしているとドアの向こうからばたばたと賑やかな足音が聞こえてきた。
佳はすぐに顔をしかめたが祐哉は口元に笑みを浮かべる。

「やっほおーーー。くーちゃんだよおおお」

ばたん!と社長室のドアが開くと大量の荷物を抱えた杏がきゃほーぅと中に入ってきたのである。
直哉が笑みを浮かべて杏から荷物を受け取ると祐哉のほうへそっと背を押した。

「おいで。くぅ」

両手を広げた祐哉の腕の中に飛び込むと膝の上に座ってぎゅうと抱きついた。
それを見て顔を引きつらせたのは佳だ。
静にいたっては目を瞬きして口を開いている。

「なにしにきたんだよっ」
「ゆーやに買い物が終わったら来るようにって言われたから!」
「だからってなんで祐哉さんの膝の上に乗ってんだよ!」
「おいでって言われたから!」

佳を振り返るとあっかんべーと杏は舌を出す。
さっさと降りろ!と佳に叫ばれて知らんぷりだ。

「買い物は終わりましたか?」
「終わったよぉー」

ちゅーと唇を突き出す杏に祐哉は苦笑して軽く口づける。
不満なのか杏は唇を尖らせて、もっかいと駄々をこねた。
杏は佳たちに背中を向けているが祐哉からは佳たちが丸見えだ。
佳はけっと言いながら顔を背け、直哉は顔を赤らめてあさっての方向に視線をさまよわせている。
唯一じっと見ているのは静だけだ。

「んもぅ。ゆーやっ。ちゃんとしてっ」
「ここでちゃんとすればキスだけでは止まりませんよ」
「ダメっ。それはダメっ」

いちゃいちゃとするバカップルに佳はテーブルをだん!と叩いて立ち上がる。
テーブルに置かれた紙コップが宙に浮いたのは気のせいではない。

「俺は帰る!」
「ばいばーい。カレシさま〜。はるかによろしくね〜」
「カレシさま言うな!」

えへっと笑った杏は余裕だ。
どすどすと足を鳴らせて佳は社長室を出て行った。
そのあとを慌てたようにして直哉が追いかけていく。

「カレシさま。短気は損気なんだよぉ」

真面目に言う杏に祐哉はくすりと笑った。
静は出て行くタイミングを逃したのか、はぁとため息をついてまた項垂れている。
静の存在に気づいた杏が祐哉の袖を引いて誰?と聞いた。

「彼はうちの新人です」
「新人くんって、あー!ゆーやに迷惑かけてる人!」
「!」

杏に指差されて静は顔をかぁと赤らめる。
自分でわかっていても気づかないフリはできるがいざ他人に言われると恥ずかしことだ。
杏が祐哉の膝から降りるととことこと静のそばに行って顔をぐいっと無理矢理持ち上げたのだ。

「あだだだだ!」
「うーん。いまいちっ!」
「なっ!」

いまいちと言われた静の頭にかーっと血が上る。
いきなり顔を上げさせられたかと思ったらその次は暴言だ。
杏の手を振り払うと静は杏を睨み返した。
こてっと首をかしげた杏はまじまじと静を見る。

「イケメンだけどぉ。ゆーやには全然ほど遠いー」

にこっと笑った顔の杏を見て静の胸がどきんと高鳴った。
口元に浮かぶ笑みに釘付けになって口元ばかり見てしまう。
杏はくるりと祐哉のほうに振り返るとだっこーと言って祐哉に抱きついた。
祐哉はそんな杏の行動に苦笑を浮かべている。

「やっぱりゆーや以外はどーでもいいみたい」
「そうですか」

うんっと嬉しそうに言う杏は祐哉を見上げてにこりと笑う。
見上げてくる杏の頭を撫でると杏が気持ちよさそうに目を細めているのだ。

「くーちゃんのことも信じた?」
「ああ。あのことですか」
「うん。そう」

二人だけにしかわからない会話をして笑い合っているのだ。
ドキドキと高鳴る胸を押さえて静はテーブルに突っ伏した。


くーちゃん、罪作りな女。
静ちゃん、こっそりくーちゃんに恋する。
中身を知ってどうする!?

2014/05/28 投稿。


  top


Copyright(c) 2014 yoma_ohkawa all rights reserved.