気持ちいい関係。

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64.くーちゃん、はるかに愚痴る。


数年後 ―


「はるかああああ!」
「あら。いらっしゃい」
「はあかたーーん」
「あーぅ!」
「あら。一哉(いちや)くん、杏季(あき)ちゃんもいらっしゃい」

二人の子供を抱えた杏はぜぇぜぇと息をしながらはるかの家に駆け込んだのだ。
杏がミニチュアの祐哉が欲しいと願ってから一年半後に長男の一哉が生まれ、さらにその一年後には長女の杏季が生まれたのである。
二歳と一歳になったばかりのこどもは我侭三昧で杏を悩ませていた。
そんなところに、だ。

「もーーいやああああ!」
「どうしたの?」
「三人目ができちゃったあああああ!」
「いいじゃない。少子化を食い止めてて」
「だったらはるかも産んでよぉ!」
「こればっかりはコウノトリさん次第」

肩をすくめているはるかを見て杏はじとりと睨みつける。
現在のところ杏の腹部は休むことがない。
一人目が生まれたと思ったらすぐに二人目。
二人目がやっと落ち着いてきたところで三人目だ。

「出産が終わってすぐにエッチするくーちゃんも悪いわよ」
「だってぇぇぇ。一年も我慢してたんだよおお。限界だったんだもんぅぅぅ」

エッチ大好きな杏が一年も大人しくしているほうが奇跡だったのだが、安定期に入るとそれなりな性生活は営んでいたのだ。
しかし杏の体を心配する祐哉が本気で杏を抱くことはなく杏のストレスは溜まっていく一方であった。
出産が終わり、医者からいいですよと言われた瞬間、祐哉の寝込みを襲ってことに及んだのはいうまでもない。
あまりにも興奮したせいか杏はうっと口元を押さえると慌ただしくトイレへと駆け込んだのだ。
はぁとため息をついたはるかはスマホを取り出すといつもの人へメールを送る。

『さっさと迎えにきてください!』

と打ち込むとはるかのスカートがぐいぐいと引っ張られたのだ。
指を咥えた一哉がよだれを流してはるかを見上げている。
時計を見ると三時だ。
腹時計に忠実なこどもたちだ。
はるかはくすりと笑うと一哉の頭を撫でた。

「はあかたん。おあちゅー」
「はいはい。一哉くんと杏季ちゃんはおやつにしましょうね」
「あーい!」

はるかの足元にぺたりと座っている杏季を抱き上げて一哉の手を引くとリビングに向かう。
ラグの上にクッションを敷いて二人を座らせると手早くおやつの準備をしてリビングに戻った。
大人しく座っている一哉と杏季はいい子だ。
二人とも見た目も性格も祐哉の遺伝子を色濃く受け継いでいる。

「はい。一哉くん、杏季ちゃん。トマトとさくらんぼのゼリーですよ」
「わー!そえ、しゅきっ!」

目を輝かせてグラスを見ている一哉の胃袋は杏似だ。
杏季も同じようによだれを流してはるかを見つめている。

「お腹だけはくーちゃんに似ちゃったのね」
「?」

不思議そうな顔をして一哉がはるかを見上げるとはるかはにこりと笑ってスプーンとグラスを一哉に持たせた。
慣れない手つきで一生懸命食べている姿は微笑ましいものがある。
手足をじたばたとさせて頬を膨らませている杏季の口元にスプーンを持っていくと大きな口を開けてゼリーを頬張ったのだ。
美味しそうにぱくぱくと食べる一哉と杏季を見ているとはるかの顔にも笑みが浮かぶ。
ゼリーを食べ終わった二人に麦茶を飲ませているとげっそりとした杏が戻って来てソファに倒れ込んだ。

「大丈夫?くーちゃん」
「だいじょーぶなわけなーい」
「つわり、ひどそうね」
「今までで一番キツい」
「そうなの?」
「ごはんもダメ、水もダメ、街中歩いてるだけでダメ、病院行くのも一苦労」

はるかには経験のないことで何と言っていいのか言い淀む。
はぁとため息をついた杏はころりと寝返りを打って仰向けになると下腹部をゆるく撫でる。

「一哉くんも杏季ちゃんもまだ小さいから三人目は大変そうね」
「あー。うん。でもそうでもない」
「そう?」
「汐見さんがいるからぁー」

一哉と杏季の面倒は家政婦の汐見がほとんど見ているといっても過言ではない。
汐見の教育が行き届いているおかげで一哉も杏季もいい子なのだ。
杏一人に子育てを任せていたらとんでもないことになる。

「汐見さんがいるのはいいんだけどねー」
「なにか問題でもあるの?」
「問題というか」

ごにょごにょと言う杏のそばにはるかは座るとよしよしと頭を撫でた。
うっとりとした顔をして杏は目を細めるとはるかの手を握り締めて、急にううっと泣く。
情緒不安定なのかしら?とはるかは首をかしげる。

「くーちゃん?」
「さ、三人目はね」
「うん」
「双子なのおおおおおおおおおおおお」
「は?」
「双子って言われたあああああああああああ」
「え?」


子だくさんなくーちゃんとしゃちょーさんでした。
そら、子だくさんにもなるわなぁ。

2014/06/02 投稿。


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