気持ちいい関係。

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ex09.くーちゃん、幸せいっぱいになる。*1*


「わ、わわわ!待ちなさーーーいっ!汐見さん!そっち行った!いち!そっち行った!」
「あらあらあら」

三歳になった一哉の楽しみは風呂上がりに母親と手伝いに来ている汐見と追いかけっこをすることだ。
普段甘えることができない分、風呂上がりの追いかけっこで甘えていた。
バスルームから逃走した一哉は水を滴らせたままばたばたと家じゅうを走り回っているのである。
バスタオルを持って追いかける杏は必死だ。

「こらあああ!」
「きゃーーーぁ!」

こども特有の甲高い声をあげて一哉は楽しそうにしている。
リビングで待機していた汐見にどん!とぶつかると一哉はころんと後ろへと転がった。
転んだことが楽しかったのか転んだままきゃきゃと喜んでいるのだ。

「や、やっと捕まえた」

寝転がっている一哉を捕まえて杏ははぁとため息をつくとフローリングに座り込んだ。
つい先日、双子を出産して帰宅したばかりの杏はめまぐるしい日常に悲鳴をあげている。

「し、死にそう」
「杏さん。一哉くんのお着替えは見ておきますから、杏季ちゃんを」
「お、お願いぃぃ」

はっとした杏はばたばたとバスルームに引き返すとバスマットの上に大人しく座っている杏季を抱き締めた。
放置していたわけでは決してなく走り回る一哉のせいでこうなったのだ。
ほぼ年子状態のこどもたちに朝から晩まで振り回され、杏はへろへろになっている。
一哉のときは母乳が出なくて苦労したことも杏季のときはあまるほど出て世の中上手くいかないことを実感した。
そして今回は授乳してもし足りない双子に泣かされる羽目になるのだ。
ちゅうちゅうと母乳を吸い尽くさんばかりの勢いでおっぱいを吸われ、あまりの胸の痛さに粉ミルクを与えてみてもイヤイヤと嫌がって結局は母乳を与えている。
母親の宿命とはいえ、なんでぇと杏は涙目だ。
じっとしている杏季の体をバスタオルで丁寧に拭くとパジャマを着せて頭を撫でた。
杏季は誰に似たのか大人しい性格で人見知りをする。
いつも杏か汐見の後ろに隠れてもじもじしているのだ。

「はい。杏季、終わったよぉ〜」
「あい、あとぉ」

たどたどしく喋る杏季は恥ずかしそうに俯くとちらりと上目遣いで杏を見上げて両手をもじもじとさせている。
抱っこしてほしくても言い出せない杏季に苦笑いをして杏は手を伸ばした。

「杏季、おいでぇ〜抱っこしてあげるよ〜」

そっと近づいてきた杏季をぎゅっと抱き締めてやるとすりすりと甘えてくるのだ。
小さな双子がいるために杏季は甘えたくても甘えられないでいる。
それは一哉も同じで二人とも小さいなりに我慢をしているのだ。
分け隔てなく愛情を注ぎたくてもなかなか難しく、気づいたときにはスキンシップをするように杏は心がけている。

「杏季はいい子だねぇ」
「まま」
「なぁに?」
「しゅ、き」

うるんとした目で見つめてくる杏季に杏の眉は下がりっぱなしだ。
なんて可愛いのっ!そう叫んでむちゅと柔らかな頬にキスをすると杏季はにこぉと可愛らしい笑みを浮かべた。
小さな手が杏の頬に触れるとむちゅっとキスが返ってきたのだ。

「んんぅっ、ママ、幸せだよぉ〜」

好き好き大好き攻撃で頬ずりをすると杏季がくすぐったそうに身をよじった。
嫌がられても杏は好き好き大好き攻撃をやめるつもりはない。
もう一度頬にキスをして杏季を抱き上げるとリビングへと戻った。

「いちくん、お着替えしましょう?」
「はぁい」

追いかけっこに満足した一哉は汐見の用意したパジャマを着ているところだった。
ボタン留めが苦手でむぅと顔をしかめたまま一生懸命留めている。
留め終えて汐見にチェックをしてもらうと掛け間違いに気づいて目に涙を浮かべていた。

「ばぁば」

汐見にぎゅっと抱きついた一哉はうるうるした目で見上げて助けを求めている。
杏には肉親がいないため汐見がばぁばのポジションに収まっていた。
それは祐哉も杏も納得してのことだ。

「ダメですよ?ちゃんと自分でしましょうね?」
「おてちゅあいしちぇくえゆ?」
「いいですよ?」

にっこりと笑った汐見に一哉はぱあと顔を輝かせるとボタンを外し始めた。
一番上だけ留めてもらうとあとは一哉が自力で留めていくのだ。

「れきちゃ!」
「はい。よくできましたね」

頭を撫でられた一哉は嬉しそうに笑うと汐見に抱きついて抱っこをねだる。
厳しくも優しいばぁばが一哉は大好きなのだ。

「いーちっ。ママにはしてくれないのぉ?」

汐見に飛びついている一哉を見て杏が口を尖らせると一哉が慌てて今度は杏の足に飛びつく。
ぴょんぴょん飛び跳ねている一哉に杏はにんまりと笑みを浮かべた。

「順番ー。次は一哉ね。おいでー」
「おかーしゃん!」
「はい、抱っこーっ!」

杏が満足するまで一哉と杏季を代わる代わる抱き上げてぐるぐると回るとそのあとは椅子に座らせて食事が始まる。


続く。

2014/06/18 投稿。


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