気持ちいい関係。

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ex11.くーちゃん、一哉に嫌われる。


過去拍手小話。
初出:2014/6/28



双子が眠って落ち着いたあと、杏は一哉と杏季を捕まえて嫌がらせのようにスキンシップをしている。
杏の好き好き大好き攻撃に一哉と杏季は歓声をあげた。
その歓声も最初だけで時間が経つにつれ嫌がられるのである。

「おかーしゃんっ。も、やっ!」
「まま、あーたんも、やっ!」

一哉と杏季にイヤイヤとされた杏はえーっ!と不満の声をあげる。
嫌がられば嫌がられるほど燃えるのは肉食女子の運命だ。

「いちも杏季もかわいいのぉぉ」

むぎゅうと抱き締めてすりすりと頬ずりすると一哉が嫌そうな顔をしてため息をついたのである。
三歳児のため息に杏は少なからずともショックを受けた。
しかもそれが祐哉にそっくりで内心ドギマギする。
ショックと興奮が入り混じってより一層スキンシップが激しくなるのだ。

「おかーしゃんっ!や!」
「いちぃぃぃ。ママとちゅーしよおおぉ」
「ぃやぁぁぁーーーっ」

杏がちゅーと唇を突き出すと一哉は杏の唇に小さな手をあててイヤイヤと頭を振るのだ。
少し前までは嫌がらずに一哉も杏にキスを返していた。
それがこのところイヤイヤと嫌がられて杏は不安に駆られる。
祐哉に言わせてみれば、くぅがしつこいのがいけないんですよ、ではあるが杏はそうは思っていない。

「いちぃぃ。ママのこと嫌い?」
「しゅ、しゅき、らけろ」
「いちいいいいいいいっ」

照れたようにぼそっと呟く一哉に杏は感極まってぎゅうと抱きつくと一哉が本気でジタバタと暴れだした。
悪循環もいいところだ。

「おかーーーーしゃん!」

おとーしゃあああん!たしゅけちぇえええと一哉が泣き叫ぶとつられるようにして杏季も泣き始めた。
一哉と杏季の本能が杏に食べられる!と感知したのだ。
タイミングがいいのか悪いのか祐哉が帰宅してその光景を目の当たりにするとため息をついて、杏と一哉を引き離した。
一哉は涙を浮かべたまま祐哉の足にひしっと張りつく。
杏季も同じようにして祐哉の足に引き離されないようにぎゅうと抱きついた。

「くぅ。いい加減になさい」
「うわーーーん!いちと杏季の裏切り者おおお!」
「あなたがしつこくするからですよ」
「そんなことないもんっ」
「はいはい」

祐哉は泣く杏季を抱き上げるとよしよしと背中を叩いてあやしながら足に張りついている一哉の頭を撫でた。
地団駄を踏んでいるのは杏で、なんでゆーやばっかりーーーと叫んでいるのだ。

「くぅの日頃の行いが悪いからですよ」

最もなことを言うと祐哉はくすくすと笑った。
それにむっとした杏は腰に手をあててぎゃあぎゃあと喚くのだ。

「いちも杏季も可愛いんだもーんっ」
「可愛いからといってやりすぎはいけません」
「愛情表現なのにぃ」
「行き過ぎた愛情表現は嫌われるだけですよ」

んもぅ!と叫んだ杏は今度は祐哉に絡み始めて、祐哉が杏に囁くと機嫌よくにこにこと笑い出したのだ。
一哉の目から二人を見ると祐哉が適当にあしらっているように見えた。
こどもながらに相手にしなければいいんだ!と勘違いをする。
それは一哉の見当違いで、適当にあしらっているように見えてその実は祐哉の罠に杏が掛かっているだけなのだ。

「こどもたちが寝静まったあとで可愛がってあげますから我慢なさい」
「ホント?」
「ええ」
「じゃぁ。我慢するぅ」

という会話があったことを一哉は知らない。
そして成長した一哉は今日も今日とて杏に懐かれて辟易していた。
嫌いではないから困ることもある。

「いちいいい」
「はいはい」
「いちが冷たいぃぃぃ」
「冷たくていいよ」
「酷いぃぃ」

相手にしてくれないとわかると杏はソファでくつろいでいる祐哉のもとへ駆け出す。
ゆーやあああと叫びながら杏が祐哉に飛びつくと、いちがいちがと訴えているのだ。
それを祐哉もはいはいと返しているのである。
瓜二つな二人は性格までそっくりだった。

「父さん。頼むから母さんをなんとかして」
「なんとかできるならとっくの昔になんとかしていますよ」
「これでカノジョにフラれたら母さん恨む」
「おやおや」
「カノジョなんてダメぇぇぇ。いちはママのっ」

一哉に抱きつこうとして杏が振り返ると後ろからがっつり祐哉に捕獲されて身動きがとれなくなった。
杏はゆっくりと後ろを振り返って顔を引きつらせる。
祐哉がにっこりと笑って杏のあごを手でとると一哉の目の前で強烈なキスをしたのだ。

「ううんっ」

ちゅっとリップ音を立てて唇を離すと祐哉がくつくつと笑って杏の顔を覗き込む。
その笑みを見て、杏はひぃと悲鳴をあげた。

「いい加減になさい。くぅ」
「やだぁっ」
「一哉の目の前でこれ以上されたくなければ大人しくなさい」
「いいもんっ。いちも混ざる?」

えへっと開き直ったかのように笑う杏に祐哉と一哉は盛大なため息をついた。
最大の敵はモラルのない杏だ。
祐哉は杏を小脇に抱えると仕置きをするために寝室に向かった。
そんな二人を見送って一哉はくるりと背を向ける。

「もう一生寝室から出てこなくていいよ」
「言葉に甘えてそうさせていただきましょうか」
「え?!」

びくんと体を震わせた杏は祐哉の腕の中でじたばたと暴れ出した。
いやあああああと絶叫する杏の叫びがリビングに響く。
叫び声が寝室に吸い込まれるようにして消えると一哉はほっと息をついた。
どさりとソファに座るとスマホを取り出して画面をタップし始める。

「一人暮らしをしよう」

以前からそろそろ自立しなさいと祐哉に言われていたのだ。
延ばし延ばしになっていたことに一哉は目を向けるとそれを実行するために準備を始めた。
杏は祐哉のせいだと怒り狂い、それをなだめるために一哉が盛大な苦労をしたのだ。
母と息子の戦いは火ぶたを切って落とされ、それに杏季も加わって大惨事になったのは言うまでもない。

「いちが出て行くなら杏季もついていくっ」
「なんで杏季まで」
「いちがいないのつまらないもの」
「ついてこられても困るんだけど」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃあ」

まさかカノジョを連れ込みたいから来るなとも言えず一哉は頭をぽりぽりと掻く。
一哉のカノジョの存在を把握している祐哉は苦笑いする。
それを見て勘づいた杏がキレるのはまた別の話。


くーちゃん、一哉が可愛すぎて構いすぎる件。
いつまで経っても子離れできないおかーさんでした。

2014/07/20 投稿。


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